過敏性腸症候群に便移植は効く? 450人の試験で分かったこと

「便移植でお腹の症状はよくなる?」という見出しと、腸の図を虫眼鏡で確かめる資料。過敏性腸症候群の450人の試験を読む記事の表紙。 腸内環境と体の仕組み
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健康な人の腸内細菌を移せば、お腹の不調もよくなるのでしょうか。

「便移植」という言葉を初めて聞くと、「え!?」と驚いてしまいますよね。便微生物移植(FMT)と呼ばれ、ドナーから提供された便を使って腸内の微生物を移す治療法です。過敏性腸症候群(IBS)に対しても研究が進められてきました。

今回は、2026年に発表された450人の試験を見ていきます。「REFIT2」はその試験の名前です。結論を先に言うと、この試験では、健康な人の便を使っても、患者さん本人の便を使う場合を上回る症状改善は確認できませんでした。この結果を見て私は、「まじかよ」と思っちゃいました。ちょっとがっかりなのです。

ただ、「便移植はどんな方法でも効かない」と決まったわけではありません。何を比べ、どこまで分かったのかを整理してみます。

健康な人の便 vs 自分の便。大規模試験の結果は…

REFIT2試験は、ノルウェーの5つの病院で行われました。対象となったのは、18〜65歳の中等症から重症のIBS患者さん450人です。

参加者を「健康なドナーの便を移植するグループ(299人)」と、「自家便(患者さん本人の便)を移植する対照グループ(151人)」に無作為に分けて比較しています。割り当てられた処置が取り違えられた2人を除き、448人を解析しました。どちらも単回、直腸から注入する方法がとられています。もちろん、自分がどちらの便を移植されたかは、患者さんにも、治療や評価を行う研究者にも分からないようにする仕組み(二重盲検法)で行われています。

さてさて、健康な人の便をもらった人たちは、自分の便を戻された人たちに比べて、劇的に症状がよくなったのでしょうか?

投与から90日後、あらかじめ設定した「IBS症状の重症度スコア(IBS-SSS)が75点以上下がった人」の割合は、以下のようになりました。

  • 健康ドナーの便を使ったグループ:40%
  • 本人の便を使ったグループ:38%
90日後に症状スコアが75点以上改善した割合は、健康ドナーの便で40%、本人の便で38%。治癒率ではなく、ドナー便の優越性は確認されなかった。

結論から言うと、この方法では、健康なドナーの便が、本人の便を上回る症状改善を示したとは言えませんでした(群間の絶対差は1.9パーセントポイント、95%信頼区間は−8.1〜12.0ポイント、p値は0.76)。ただし、差があると確認できなかったことは、両者が同じだとか、効果が完全にゼロだと証明されたこととは違います。

これは治った人の割合ではなく、症状スコアが一定以上改善した人の割合です。数字だけを見ると「4割の人に効いた!」と言いたくなるかもしれません。しかし、研究を見るうえで大切なのは比較です。比較対象である「自分の便を戻したグループ」でも38%の人が症状改善の基準を満たしていました。

ちなみに、本人の便を使った人たちの改善を、すべて「思い込み」で片付けることもできません。この試験には何も処置をしないグループがないため、治療への期待、症状の自然な変化、処置そのものの影響を、この比較だけで分けることはできないからです。

「菌が変わること」と「患者さんが楽になること」は違う

菌の定着を示す概念図と、症状・生活の質を評価する人物と記録用紙。定着は確認された一方、対照群を上回る改善は確認されなかったことを区別する。

ここで一つの疑問が浮かびます。「そもそも、移植したドナーの菌はちゃんと腸に住み着かなかったのでは?」と。

実は、実施病院の説明では、ドナー由来の腸内細菌の定着は確認されたものの、症状や生活の質について、対照群を上回る改善は確認されなかったそうです。

ここは、結果を読むうえで大切なポイントです。

私たちはつい「腸内細菌のバランスを変えれば、症状もよくなるはずだ」と一直線に結びつけてしまいがちです。しかし現実には、「他人の菌が定着したこと(腸内細菌の変化)」と、「お腹のつらい症状がよくなること(症状の評価)」は、必ずしもイコールではないのです。過去に行われた別の研究(2018年のHalkjærらの報告)でも、便移植によって腸内細菌の多様性は増したのに、3か月後の比較では、症状の改善度合いはプラセボのカプセルを飲んだ対照群のほうが大きかった、という似たような例があります。

これまでの研究と何が違うの?

投与方法、ドナー、改善の基準を並べた三つの資料。胃カメラ・直腸・カプセルなどの方法や、症状スコア50点以上・75点以上低下という基準の違いを示す。

とはいえ、「以前、便移植でIBSがすごくよくなったというニュースを見たことがあるぞ」という方もいるかもしれません。

実際、2020年のEl-Salhyらの試験では、健康なドナー便のグループが、本人の便を使う対照群より改善したという結果も出ています。ただし、3か月後に症状スコアが50点以上下がれば改善とするなど、今回とは評価基準も違います。

なぜこんなに結果が違うのでしょうか。実は、研究によって「どうやって便を入れるか(胃カメラか、直腸からか、カプセルか)」「誰の便を使うか」といった条件がバラバラなのです。REFIT2の結果は「FMTはどんな方法でも絶対に効かない」と全否定するものではありませんが、「この特別なドナーなら効くはず」「上から入れれば必ず効く」とシンプルに結論づけるのも難しい、ということです。

別の病気での成功と混同しないように

AGAの2024年ガイドラインを開いた本。再発するC. difficile感染症とIBSでは提案が異なり、2026年のREFIT2試験より前の勧告であることを示す。

便微生物移植を語るうえで気をつけたいのが、病気の種類です。

アメリカ消化器病学会(AGA)の2024年のガイドラインでは、何度も再発する「クロストリディオイデス・ディフィシル感染症」という特定の病気に対しては、条件に合う患者さんにこの種の治療を提案しています。一方で、同じ2024年のガイドラインでは、IBSに対する従来のFMTを、臨床試験以外で用いないことを提案しています。

ある感染症で使われる治療だからといって、過敏性腸症候群にもそのまま当てはまるわけではないのですな。なお、このガイドラインは2024年のもので、今回の2026年の試験を受けた勧告ではありません。

また、「健康な人の便なら安全だろうし、自分でやってみよう」などと考えるのは絶対にやめてください。米国食品医薬品局(FDA)は2019年に、研究目的のFMTを受けた免疫力の低下した患者さん2人が多剤耐性菌の感染症にかかり、うち1人が亡くなるという痛ましい事例があったと警告を出しています。医療機関の厳格な管理なしに行うことは、大きな危険を伴います。

まとめ:今回の試験では、過敏性腸症候群への便移植の効果は確認できなかった

REFIT2試験の結果は、便微生物移植への期待が大きかっただけに、少し意外で残念に感じる方もいるかもしれません。

でも、この結果は「腸内環境なんてどうでもいい」「食事や腸活には意味がない」と言っているわけではありません。今回の結果だけで、食事やほかの治療法の効果まで判断することはできません。少なくとも、この方法でドナーの菌を移しても、本人の便を使う場合を上回る症状改善は確認できませんでした。

最新の研究結果を追いかけつつも、ひとつの治療法に過度な期待を寄せすぎず、冷静に向き合っていく。そんなスタンスが、私たちには必要なのかもしれません。

*参考資料

資料再確認日:2026年10月27日(日本時間)。以下の確認範囲を超えて、原著全文を確認したとは扱っていません。

Johnsenほか「Faecal microbiota transplantation in irritable bowel syndrome (REFIT2): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial.」The Lancet(2026年)。今回、PubMedの公式検索結果に表示された原著抄録全文を照合。PubMedページ本文は取得できず、出版社の原著全文・補遺は未確認。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42785338/

Helse Møre og Romsdal「Stor norsk studie: Ingen effekt av avføringstransplantasjon ved irritabel tarm」(2026年9月30日)。定着やQOLに関する実施病院の解説として、今回、公式ページ本文を確認。原著の定着・生活の質に関する詳細解析は未確認。
https://www.helse-mr.no/fag-og-forsking/forsking-og-innovasjon/forskingsnyheiter/stor-norsk-studie-ingen-effekt-av-avforingstransplantasjon-ved-irritabel-tarm/

El-Salhyほか「Efficacy of faecal microbiota transplantation for patients with irritable bowel syndrome in a randomised, double-blind, placebo-controlled study.」Gut(2020年)。今回、医療機関Darmzentrum Bernが公開する原著PDF本文の該当箇所を確認。
https://www.darmzentrum-bern.ch/fileadmin/darmzentrum/Education/Journal_Club/2020/JC_2020-03-04_NKrup_ElSalhy_Gut_2019_FMTinIBS.pdf

Halkjærほか「Faecal microbiota transplantation alters gut microbiota in patients with irritable bowel syndrome: results from a randomised, double-blind placebo-controlled study.」Gut(2018年)。今回、コペンハーゲン大学掲載の原著抄録を確認。原著全文は未確認。
https://researchprofiles.ku.dk/en/publications/faecal-microbiota-transplantation-alters-gut-microbiota-in-patien/

Peeryほか「AGA Clinical Practice Guideline on Fecal Microbiota-Based Therapies for Select Gastrointestinal Diseases.」Gastroenterology(2024年)。今回、イタリア消化器学会AIGO掲載の原著PDFで推奨事項の本文を確認。
https://www.webaigo.it/download/20240225141342.pdf

FDA「Fecal Microbiota for Transplantation: Safety Communication – Risk of Serious Adverse Reactions Due to Transmission of Multi-Drug Resistant Organisms」(2019年6月13日公表、18日更新)。今回、FDA公式本文を確認。
https://www.fda.gov/safety/medical-product-safety-information/fecal-microbiota-transplantation-safety-communication-risk-serious-adverse-reactions-due

福山

・大学院でがんの研究をしてたら
・あれ?これ、金かかりすぎやね?
・健康でいることがもっとも社会貢献じゃね?
・とか考えた人
・その結果、腸内環境を整えるのが健康への第一歩やで
・と判断し、その考えを広めるためにブログ開設

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