微生物は発酵・醸造(じょうぞう)にどう関わっているのかな?
そんな疑問に答えます。
発酵・醸造とは、微生物の働きによって、食品を科学的に変換する過程のことをいいます。発酵・醸造することで、
- 食品の貯蔵
- 独自の文化における食の嗜好
をもたらしました。
それでは以下にもう少し具体的に発酵・醸造について書いていきます。こちらのページは、
- 発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求
- 『生物の科学遺伝 特集:発酵・醸造食品における多様な微生物の働き』
を参考にしています。
発酵・醸造に使われる微生物
微生物は2つに分類されます。
- 原核生物(細胞小器官を持たず、遺伝情報であるDNAは細胞質に存在する)
- 真核生物(細胞小器官を持ち、遺伝情報のDNAは核のなかに存在する)
発酵・醸造が原核生物と真核生物どちらの微生物によってもたらされるかというと、どちらの微生物も利用されています。
原核生物が作り出すもの
- 乳酸菌→乳酸発酵によりヨーグルトやチーズ、漬物など
- 酢酸菌→酢の製造に利用
- 納豆菌→納豆の製造に利用
- グルタミン酸生産菌→うま味物質として知られるグルタミン酸を生産
真核生物が作り出すもの
- ビール酵母→ビールの製造に利用
- ワイン酵母→ワインの製造に利用
- 清酒酵母→日本酒・焼酎・泡盛の製造に利用
- 麹菌(糸状菌:カビの仲間)→日本酒・醤油・味噌の製造に利用
麹菌(こうじきん)について
麹菌(こうじきん)は、日本の伝統的な醸造産業における、日本酒・醤油・味噌の製造に大きく関わっています。
麹菌は、菌糸を張り巡らし、空気中にも菌糸を伸ばして胞子を形成します。麹菌を原料となる穀物に生育させたものを『麹(こうじ)』と呼びます。(例:米に麹菌を生育させたもの→米麹)
麹菌と一言でいっても、種類はさまざまでして、
- 日本酒製造→Aspergillus oryzae
- 醤油の製造→Aspergillus oryzaeやAspergillus sojae(プロテアーゼ活性が強い→タンパク質分解能力に優れている)
- 焼酎の製造→Aspergillus luchuensis(黒麹菌と呼ばれる)、Aspergillus luchuensis mut.kawachii(白麹菌と呼ばれる)が使われている。クエン酸を多く作るため、発酵の過程で賛成に保つことができ、気温が高くても腐敗を防ぐのに適している。
米麹と日本酒の関係
日本酒は、米麹のアミラーゼ(酵素の一種)により、米のデンプンがグルコースにまで分解され、そこから酵母によるアルコール発酵が可能になります。
醤油と味噌と麹菌の関係
醤油や味噌は、麹菌のプロテアーゼ(酵素の一種)により、大豆のたんぱく質をアミノ酸にまで分解し、アミノ酸の1種であるグルタミン酸がうま味として美味しさを引き立たせます。
麹菌とカビの違い
麹菌は加水分解酵素をコードする遺伝子が多くをもち、カビに比べて醸造において原料を分解する能力に長けている。
また、麹菌は二次代謝産物をほとんど作り出しません。カビはアフラトキシンと呼ばれるカビ毒を二次代謝物として作り出します。麹菌もゲノム解析によると、アフラトキシン生合成に関与する遺伝子群を持っているのですが、一部または完全に生合成遺伝子が欠落していることが明らかになっています。
お酒を作り出す酵母の科学
ここからはお酒と酵母の関係性について書いていきます。
お酒作りに欠かせない醸造用酵母
お酒作りに欠かせないのが醸造用酵母になります。酵母は糖分、例えば、
- グルコース
- フルクトース
- マルトース
などの糖分をアルコール(エタノール)に変換する、解糖系およびアルコール発酵の効率が優れています。
また、酵母はお酒の味や香りの成分も生成しているので、お酒の個性を決めているとも言われています。
醸造用酵母の種類
- ワイン酵母
- ビール酵母
- 清酒酵母
などがあります。
醸造場ごとに独自に進化した酵母
長い年月をかけて醸造環境に適応し、酵母が醸造場に棲み着くことで、醸造場ごとに独自の進化を遂げた酵母がいます。清酒業界では『蔵付き酵母』などと呼ばれます。
醤油作りに欠かせない微生物の科学
続いて、醤油作りに欠かせない麹菌について書いていきます。
醤油の作りと微生物の関係
醤油は、
- 大豆
- 小麦
- 食塩
を原材料とし、微生物発酵によって作られます。醤油には300種類を超える香気成分やアミノ酸、有機酸、糖などの様々な成分が含まれており、それゆえ風味豊かな味になります。
これらの成分の多くは、
- 麹菌
- 乳酸菌
- 酵母
の3種類の異なる微生物の複合的な働きによって作られます。
醤油が作られる過程
醤油製造は以下の工程でおこわなれ、だいたい半年ほどの期間を要します。
- 等量の蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を接種
- 約3日間かけて麹菌を生育(生育したものを醤油麹という)
- 生育した麹菌は、タンパク質分解酵素や糖質分解酵素などの様々な酵素を生産
- 醤油麹に食塩水を加える
- 醤油麹と食塩水が混ざったものを諸味(もろみ)と呼ぶ
- 諸味発酵過程で、麹菌由来の酵素による原料分解と、醤油乳酸菌および醤油酵母による発酵が起こる
- 庶家運濃度が17〜18%と高いため、耐塩性のない微生物は生息できないため、徐々に麹菌は死滅(作り出した酵素は機能する)、耐塩性の微生物が生育する
- 好塩性の醤油乳酸菌が生育し、小麦のでんぷん質が分解されて生じるグルコースを乳酸に、大豆中に存在するクエン酸を酢酸に変えていく
- その結果、醤油にわずかな酸味がおびる
- 醤油乳酸菌の後に生育してくるのが耐塩性酵母で、主発酵酵母と熟成酵母とがある
- 主発酵酵母は、グルコースを利用して2〜4%のエタノールと少量のグリセリンを生成。それと同時に、多種類の香気成分を生成。
- 熟成酵母は、小麦リグニン由来のフェノール化合物から香気成分を生成する
- 酵母発酵終了後は、しばらく諸味を熟成させる。その間に各種成分間で様々な化学反応が起こる。例えば、メイラード反応により、アマドリ化合物が生成し、醤油の色やまろやかなコク、うま味を与える
- 発酵熟成が終了した後の諸味は『濾布(ろふ)』と呼ばれる布に包み、圧力を少しずつかけながら加重し、液体成分と固形分に分離させる。この作業を圧搾と言う
- 液体部分が生醤油であり、生醤油は微生物殺菌、酵素の失活を目的とした「火入れ」と言う最終工程を経て製品化される
漬物作りに欠かせない乳酸菌の科学
続いて乳酸菌と漬物の関係について書いていきます。
ぬか床と乳酸菌
ぬか漬けは発酵漬物の1つになります。ぬか漬けは、野菜をぬか床に漬け込んで作られる漬物のことです。
ぬか床は、
- 米ぬか
- 塩
- 水
を混ぜて練り合わさったもので、ここに野菜を漬け込むことで発酵が進み、独特の風味が作り出されていきます。ぬか床には乳酸菌が生育することが分かっています。
塩分濃度や発酵期間によりぬか床の菌の種類や割合は変化します。そのため微生物のぬか床中の役割については不明なことが多いのが現状です。
漬物由来乳酸菌が作り出すバクテリオシン
乳酸菌は主な代謝物として、細菌に対して広く抗菌活性を示す乳酸を生産し、他にも酢酸やエタノール等の種々の低分子抗菌性物質を生産し、雑菌による汚染から発酵食品を守り、保存性を高めてくれます。
また、乳酸菌の中には、バクテリオシンと総称される抗菌ペプチドを生産するものもあり、バクテリオシンが漬物の保存性の向上にも寄与していることが予想されています。現在、もっとも代表的な乳酸菌バクテリオシンがナイシンAになります。
現在、ナイシンAは日本を含め、世界中で広く食品保存料として利用され、最近では口腔ケア剤などにも応用されています。
以下、発見されたバクテリオシン。
- ワイセリシンY:高菜漬けから分離された乳酸菌から作り出される→バチルス属細菌などに抗菌活性を示す
- ワイセリシンM:高菜漬けから分離された乳酸菌から作り出される→バチルス属細菌などに抗菌活性を示す
- ロイコサイクリンシンQ:赤かぶ漬けから分離された乳酸菌から作り出される→グラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示す
- ナイシンZ:島根県の津田かぶ漬けなどから分離された乳酸菌から作り出される
おわりに:人と微生物との共存が興味深い
長い年月をかけて人と微生物が共存してきたんだなーとシミジミ。体に悪い微生物が注目されていますが、体に良い微生物もたくさんいるんだということを改めて実感しました。
発酵食品LOVEです。それでは!
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