人間はいつ腸内細菌をもらうのか?母親から受け継がれるもう一つの遺伝子

乳児と腸内細菌の関係性腸内フローラを改善する
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今では腸内細菌が体にとって大切だと言う事は、当たり前の話になっていきました。では腸内細菌は、いつ人間のお腹の中に住むようになるのでしょうか?

今回の記事では『腸内細菌環境の形成』について書いていきたいと思います。

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1 母親から受け継ぐ腸内細菌

生まれる前の胎児は『無菌状態』にあるので、まったく細菌は住みついていません。

1.1 産道を通るときに細菌とはじめて出会う

人間が細菌と初めて接触するときは、母親の子宮から離れるとき、つまり出産の時です。そこから赤ちゃんと細菌との共生が始まります。

 

胎児は子宮から産道を下りていき、母親の膣と肛門にいる細菌に出会います。産道には、ビフィズス菌など、腸内と共通する細菌が住んでいます。

 

細菌なのでイメージとしては「汚い!」と思うかもしれませんが、健康的な母親が厳選した細菌とも言える微生物に出会うわけですから、子供にとって最も安心できる微生物なわけです。

 

お母さんの産道を通るときに、赤ちゃんの口や鼻から入った細菌は、やがて腸に住みつきます。お母さんからもらうものは愛情や遺伝子の他に、『細菌』もあるのですね。

 

2013年、ベルギーにあるヤクルト本社ヨーロッパ研究所は、自然分娩の母子12組と、帝王切開の母子5組の腸内細菌を比較しました。すると、自然分娩で生まれた新生児のうち11人が、母親と同じ菌株のビフィズス菌を持っていたのに対し、帝王切開で生まれた新生児からは、同じ菌株が見つかりませんでした。(株とは「種」よりも細かい細菌の分類です。母親と子供の腸内細菌が「株」レベルで一致したということは、お母さんの産道を通った時にもらった菌が、赤ちゃんの腸に住み着いたことの証拠になります。)

1.2 帝王切開で生まれると

全く菌を持っていない、『無菌マウス』の作り方をご存知でしょうか?無菌マウスは研究のために人為的に作られるマウスで、無菌マウスを作るためには自然分娩(経膣分娩)ではなく、『帝王切開』を行います。なぜ帝王切開をするかと言うと、自然分娩だと細菌がついてしまうからです。

 

人間も一緒でして、帝王切開で生まれてくる赤ちゃんは産道で出会うはずの細菌に出会いません。帝王切開で生まれてくる赤ちゃんが出会う最初の微生物は、母親特有の微生物のみではなく、母親の皮膚についている微生物や、医師や看護師の皮膚の微生物にも出くわします。

 

自然分娩で出会う多くの細菌には乳酸菌の一種の『ラクトバチルス』ですが、帝王切開だと病原性細菌に多い『プロテオバクテリア』に出会います。(参考→Delivery mode shapes the acquisition and structure of the initial microbiota across multiple body habitats in newborns)

 

帝王切開で生まれた人は、肥満やアレルギー、グルテン不耐性、虫歯にかかりやすいう研究結果もあり、自然分娩で良質な細菌に出会うことが重要なのではないかと言われています。

 

(といっても、自然分娩の子どもでも、母親から直接もらった菌は全体のごくごく一部で、腸内細菌の大部分は、成長の過程で獲得していきます)

1.3 細菌に触れるのが遅いと免疫系の発達に弊害が生まれる

2012年の論文によると、一生のうちにあまりに遅い段階で細菌と接すると、免疫系が発達する機会が失われてしまうことがわかっています(Microbial Exposure During Early Life Has Persistent Effects on Natural Killer T Cell Function)。

 

この世界に生まれる以上、無菌状態をキープすることはできませんが、我が子の可愛さあまり、清潔に気をつけ過ぎることもよくありません。

 

また、小さい時に抗生物質を飲み過ぎることもよくないです。抗生物質は、人間にとって良い菌も悪い菌も、無差別に殺していくからです。抗生物質と腸内細菌の関係性については、こちらの記事で詳しく書いているので参考にしてみてください→食品添加物や抗生物質が腸内細菌に与える負の影響

 

覚えておかなくてはならないことは、適度な汚さが子どもの免疫系を発達させるということです。そして、抗生物質などは悪い菌も良い菌も無差別に殺していき、腸内環境を壊滅状態にさせるということです。

1.4 腸内フローラは5歳までに決まる

2007年にスタンフォード大学が14人の乳児の腸内細菌環境の成長を観察しました(Development of the Human Infant Intestinal Microbiota

 

生まれたばかりの赤ちゃんの腸内フローラは未発達の状態で、最初の数ヶ月は様々な腸内細菌が増えたり減ったりします。ところが、生後6ヶ月ほど経つと、ビフィズス菌が90%以上占めるまでになります

 

しかしこのままビフィズス菌が9割のまま成長していく事はありません。次第に、他の種類の腸内細菌が増えていき、ビフィズス菌の割合は相対的に減っていきます。どんな腸内細菌が、どのくらいの割合で住み着くのかは、人それぞれ異なります

 

そして多くの場合、大体5歳位までには腸内フローラの構成が決まってしまい、その後は大人になってもほとんど変わらないと考えられています。(もちろん食生活などで小さな変化は絶えず起こります。)

 

さらに年齢が進み老化が始まると、腸内細菌の種類が少しずつ減り、腸内細菌の多様性が失われていくことがわかっています。

1.5 母乳と腸内細菌の関係性

新生児が最初に口にするのは『母乳』です。母乳には乳児が必要な栄養成分が全て含まれています。その中には、栄養だけでなく抗体などの免疫系分子が含まれており、乳児の免疫系が発達するまで乳児に受動免疫を与えます

 

それに加え、母乳に特徴的な成分にヒトミルクオリゴ糖(HMO)があります。ヒトミルクオリゴ糖は複合炭水化物であり、母乳の中で脂肪と乳糖の次に多く含まれているものです。

 

ここで興味深い点があります。母乳にヒトミルクオリゴ糖は多く含まれているのに、化学構造があまりに複雑すぎてヒトには消化ができない点です。

 

じゃあなんでこんなものをわざわざ作っているかと言うと、ヒトミルクオリゴ糖は、乳児ではなく、腸内細菌のための食べ物になるからです。母乳は赤ちゃんのためだけの食事ではなく、腸内細菌のための食事にもなっているんですね.

1.6 疳の虫と腸内細菌

オランダの科学者グループが、生後100日に渡り、24人の新生児の腸内細菌を観察しました(→Intestinal Microbiota of Infants With Colic: Development and Specific Signatures)。

 

この研究によると、疳の虫の原因と腸内細菌が関係しているとのことです。24人の半分に当たる新生児には疳の虫があり、残り半分はありません。疳の虫を持つ新生児の腸内細菌は、そうでない新生児より細菌の多様性が低いことがわかりました

 

また疳の虫がある新生児には、プロバクテリア門の細菌が多く、ビフィドバクテリウム族や楽とバチルス族の細菌が少なかったことがわかりました。この腸内細菌環境は、帝王切開で生まれた子や、母乳ではなく人工乳哺育で育った子供に似ていました。この研究結果からも、乳児と腸内細菌の関係性が伺えますね。

1.7 離乳期と腸内細菌

乳児はおよそ6ヶ月で固形物を食べるようになります。固形物を食べ始めると、腸内環境に大きな変化を起こし、徐々に大人と同じような腸内環境になっていきます。

 

子供の誕生から2歳半までの腸内環境の変化を捉えた研究があります(Succession of microbial consortia in the developing infant gut microbiome)。

 

乳児が初めて植物性の固形物(えんどう豆)を食べた時に、腸内の細菌数は一気に増えました。つまり、新しい種類の食べ物が腸内細菌に新たなエネルギーを与えたということです。

 

でも少し考えてみてください。なぜ食物繊維が含まれる食べ物を初めて食べたのに、消化する状態が整っているのでしょうか?(ヒトには食物繊維を分解する力がない)

 

ここで先ほど書いた母乳に含まれる『ヒトミルクオリゴ糖』が関与しています。ヒトミルクオリゴ糖が、植物性の食料を消化するための細菌にも栄養を与えることで、いつでも植物性の食料が入ってきても大丈夫なように準備をしていたというわけです。

おわりに

今回の記事では乳児と腸内細菌の関係について書いてきました。なかなか驚くべき内容ではなかったでしょうか?子供の腸内細菌は母親譲りで、しかもその腸内細菌を母乳で育てているということですからね。

 

「細菌は危険!」というイメージばかりが先行しますが、人間は菌との共生を選んでいます。もちろん人間に害を与える菌もありますが、少なくとも腸内や皮膚表面にいる細菌は、有用な菌が多いんですね。菌が人間に与えるプラスの影響は、近年の研究でどんどんわかってきています。ということで、またわかり次第記事にしていこうと思います。参考までに。それでは!

*腸内環境の大切さを勉強するためのオススメ本

今までに多くの『腸内環境の大切を伝える本』を読んできました。その中でもイチオシなのがアランナ・コリン先生の『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』になります。

分厚くて少々読みにくいかもしれませんが、腸内環境の大切さを深く知っておく上で外せない一冊になります。

「もうちょっと読みやすい本を頼むぜ!」という方のためオススメできる本は、『腸科学』になります。こちらは読みやすいと思います。

どちらのほんも「腸内細菌スゲー」と思うこと間違いなしです!

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