腸脳軸という言葉を聞いたことがあるでしょか?
胃腸と脳は密接に関係しているので、そういう呼ばれ方がされています(第二の脳とも呼ばれますね)。食物を食べることもそうなのですが、食べる前の、食物の見た目や匂いを嗅ぐだけで、胃腸と脳に影響を及ぼす生理反応やホルモンが分泌されます。
そして、こうした影響に一役買っているのが腸内細菌なのです。今回の記事も『マイクロバイオームの世界』を参考にしています。
胃腸が脳に与える影響
胃腸が脳に与える代表的なものは、『食欲の調節』です。
- インスリン
- グレリン
- レプチン
- オベスタチン
- コレシストキニン
などのホルモンが関係しています。
胃が脳とのやりとりに用いる主な神経経路は迷走神経で、これは胃腸で消化作用が起きているという情報を受け取ると、食物をどうするべきかの指示を脳に直接送ります。
食欲の増進がされたり、抑制がされたり、食べ物を探すような指示がされるのです。
迷走神経について少し詳しく
迷走神経について少し詳しく触れてみたいと思います。
通常、脳と全身は背骨の中を通る『脊髄』を通して繋がっています。
しかし、腸にはこのルートとは別の直通回路があります。
それが『迷走神経』になります。
迷走神経はいわゆる自律神経の一種で、普段私たちの意識にのぼらないところで、体の様々な機能を調節しています。
ちなみにですが、人間の脳は1000億個の神経細胞がネットワークを作っています。
神経細胞を持っているのは脳だけではなく、腸にもあります。
腸管神経系と呼ばれており、人体の中では脳に次いで2番目に神経細胞が集中しているところになります。
その数はというと、およそ1億個で、この数は犬の脳とほぼ同じです笑
これってかなりすごいことだと思いませんか?
だって、犬と一緒なんですよ!
これも余談ですが、そもそも生物の進化を辿ると、生物は最初脳ではなく腸で考えていたのです。
脊椎動物が現れる以前は、イソギンチャクのような食べ物を取り込む口と排泄物の出口が1つになったような腔腸動物と呼ばれる生き物でした。
だから脳などという高等なモノは存在せず、腸が「これは食べていいもの、食べてはダメなもの」の指令を出していたと言われています。
腸は第二の脳なんて言われてますが、生物の歴史からいうと、腸は第一の脳なのです。
うつ病と腸内環境
ここからが本題で、うつ病と腸内環境に関係があることがわかってきています。
うつ病は、HPA(視床下部・下垂体・副腎系)軸と呼ばれるものと関係があるとされ、これらはヒトの行動や脳の働きの調整に関わっています。
2004年、九州大学の須藤信之さんたちの研究で、腸脳軸と腸内細菌の関係が初めて示されました。
腸内細菌を持っていない無菌マウスは、多様なマイクロバイオームを持つマウスと比べ、ストレスを感じないということが分かったのです!
具体的には、無菌マウスはストレスや不安を抑制するための副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とコルチコステロンの両方がHPA軸に沿って高い濃度で現れていました。
そこからマイクロバイオームがHPA軸で分泌されるホルモンに影響を与え、マウスのストレスレベルで影響を及ぼしていると考えられたのです。
そしてここから、正常なマイクロバイオームを持つマウスに、病原遺伝子を持つ株と持たない株を与え、両者でストレス反応を比べました。
良性の大腸菌株を与えられたマウスは無菌マウスの実験とよく似た反応を示しましたが、病原性の大腸菌株を与えられたマウスはストレスが増して、ACTHとコルチコステロンの濃度が減ったのです。
次に、無菌マウスの成長段階に分け(3つ)、病原性大腸菌株を与えられたマウスの糞便を与えました。
- 成長初期:ACTHとコルチコステロンの濃度が抑えられ、ストレステストの結果が悪かった
- 成長中期:ACTHとコルチコステロンの濃度は変化せず、通常のストレス反応を示した
- 成長後期:成長中期に同じ
この実験からわかることは、ストレスを受けたマウスの糞に含まれる微生物が、胃腸マイクロバイオームが確立していない成長初期段階のみにだけストレス反応を与えるということです。
この話を聞いて「意味がわからない」という人のために(私の説明力不足は否めませんが)、超簡単に説明すると「腸内細菌がストレスに関係してるよ!」ってことです笑
少し話は変わりますが、腸内細菌は脳の発達にも大きな役割を果たしていることが分かっています。
それがなぜか?という理由はまだですが、やはり行動が関係してくると思われます。
無菌マウスは不安やストレスを感じにくいのですが、マウスでもヒトでも不安やストレスを感じるからこそ『対策』を取ろうとするのではないでしょうか?
未来に対して不安を感じるため、その不安を取り除くために頭で考えたりすると思うんですね。
だからこそ脳の発達に関係があるのかもしれません。
腸内細菌の強制水泳試験
マウスのストレスレベルを調べるテストに『強制水泳試験』というものがあります。
マウスを、足の届かない深さに水を張った水槽にいれ、泳ぎ回る時間を計ると言うものです。水槽に入れたマウスは、水から這い上がれる場所はないかと、しばらくは泳ぎ回ります。しかし、やがて気力を失い、泳ぐのをやめます。一方、うつ状態になったマウスはすぐに泳ぐのをやめてしまいます。普通のマウスと、うつ状態になったマウスの泳ぐ時間を比較できる強制水泳試験は、マウスのうつを計る指標として用いられています。
また、強制水泳試験は抗うつ薬の有効性を調べるためにも使われています。正常なマウスに抗うつ薬を投与し水槽に入れ、水から這い上がろうと努力する時間が長ければ、その薬は強制水泳のストレスを和らげる働きがあったとみなされます。
で、ここからが腸内細菌と強制水泳試験のお話です。ラクトバチルス・ラムノサスという微生物を与えたマウスと、与えてないマウスで強制水泳試験をすると、ラクトバチルス・ラムノサスを与えたマウスの方がよじ登り行動を長時間示しました。
つまりラクトバチルス・ラムノサスにはストレスを和らげる要因があるということです。実際にマウスの脳を調べると、神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)の受容体がより多く生じていました。
また、ラクトバチルス・ラムノサスを与えたマウスを2つのグループに分け、片方のマウスグループは迷走神経を切断し、両方のグループで強制水泳実験をすると、迷走神経が断たれたグループは絶たれていないグループより、はるかに早く諦めることが分かりました。
この結果から分かることが、
- 迷走神経が腸の情報を脳に伝えるために欠かせないこと
- 腸に存在するものの情報が脳にとって重要であること
です。
まとめ
いかがだったでしょうか?
この記事では『腸と脳の関係』について書いてきました。
ちょっと難しい内容でしたけど、これに興味がある方は是非とも『マイクロバイオームの世界』を手にとって読んでみてください。
腸と脳の関係についてまだまだ不確かなことはありますが、『関係がある』ということは確かなことでしょう。
今後の科学の発展が楽しみですね〜。
ということで、脳のためにも腸内環境を整えることは必要だと思います!
今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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